ずに死なせてしまいましたわ。実父の家とは、父の死後に、義母|姉妹《きょうだい》の交わりをするようになりましたけれど――」
その、哀れなはなしは、わたしの小さな美人伝に書いたことなのでみんな知ってはいたが、いたましい思いに眼を伏せていた。
悲しい事実も、盛時《さかり》の彼女には悲話は深刻なだけ、より彼女が特異の境遇におかれるので、彼女は以前《もと》から隠そうとはしなかった。ただしんぼうのならないのは、子供があるといわれることだと彼女はいった。
「私に、子供があってくれればですが、でも、ないものをあるといわれるのは、嫌《いや》なものねえ。ある時、あなたの子だと、名乗っているものがある、それが誠に美しい容貌《ようぼう》の男の子なので、誰しもそれを疑わずにその者のいう通り、あなたの隠し児《ご》であるのかと信じている。という、便りをきかせてくれたものがあったのです、ええ拵《こし》らえものですもの、でも、驚きました。」
さまざまな手配をして、ようやく分明《ぶんみょう》にしたのだといって、
「美しい人に似ているといわれた心地《ここち》よさから、つい名を騙《かた》ったというのですの。その子供も、
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