御洋食ですの。わざと、洋食にいたしましたのよ、自慢の料理人でございます。軽井沢《かるいざわ》へゆきますのに連れてゆくために、特別に雇ってある人ですの。」
その、御自慢の料理人が、腕を見せたお皿が運びだされた。
「明日《あした》は泉鏡花さんも見えるでしょうよ、あの方の厭《いや》がりそうなものを、だまって食べさせてしまうの、とてもおかしゅうござんすわ。」
泥鼈《すっぽん》ぎらいな鏡花氏に、泥鼈の料理を食べさせた話に、誰も彼も罪なく笑わせられた。
あたしは、鏡花さんが水がきらいで私の住んでいた佃島《つくだじま》の家《うち》が、海※[#「さんずい+粛」、第4水準2−79−21]《つなみ》に襲われたとき、ほどたってからとても渡舟《わたし》はいけないからと、やっとあの長い相生橋《あいおいばし》を渡って来てくださったことを思出したり、厭《きら》いとなったら、どんな猛暑にも雷が鳴り出すと蚊帳《かや》のなかでふとんをかぶっていられるので、ある時、奈良へ行った便次《ついで》に、唐招菩提寺《とうしょうぼだいじ》の雷|除《よ》けをもっていってあげたことを、思出したりしていた。泉さんは、厭《きら》いといえ
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