したちは、充分に見た。長く曳《ひ》いた引き裾《ずそ》の、二枚重ねの褄《つま》さきは、柔らかい緑色の上履《スリッパ》の爪《つま》さきにすっとなびいている、紫の被衣《ひふ》のともいろの紐《ひも》は、小高い胸の上に結ばれて、ゆるやかに長く結びさげられている。
胸の張りかた、褄の開きかた、それは日本服であって立派な夜会服《イブニング》のかたちだ。肩から流れる袖のひだ[#「ひだ」に傍点]など、実になめらかに美しい。そして、胸のふくらみから腰から脚へかけての線など、その豊饒《ほうじょう》な肉体の弾力のある充実を、めざましく、ものの美事に示している。
切子《きりこ》の壺《つぼ》のような女性《ひと》だ、いろんな面を見せてふくざつにキラキラしている。
気の弱い男だったらあがってしまうだろうな。と、その個性の高い香気を讃美しながら、ひきつける魅力の本尊は何処《どこ》かと、彼女の眼を見た。
彼女の双眼は、叡智《えいち》のなかに、いたずら気《ぎ》を隠して、慧《さか》しげにまたたいていた。引き緊《しま》った白い顔に、黒すぎるほどの眼だった。もとより黒く墨を入れているのでもなければ睫毛《まつげ》に油をうけ
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