ので誰も本気で聞かなかったので、あとでは強い人があれだけいったのには、いうに言えないさびしさがあったとは思いましたけれど――
 そうそう、よく死ぬのは何が一番苦しくないだろう。縊死《くびくくり》が楽だというけれどというので、いやですわ、洟《はな》を出すのがあるといいますもの、水へはいるのが形骸《かたち》を残さないで一番好《い》いと思うと言いますと、そうかしら、薬を服《の》むのは苦しいそうだね。と溜息《ためいき》をついたりして、変だと思った事もあったのですが、大阪へいっても死ぬ日に、たった一人で住吉《すみよし》へお参詣《まいり》に行くといって、それを止《と》めたり、お供《とも》がついていったりしたら大変機嫌がわるかったのですって、それから帰って死んだのですが、あとで聞くと、住吉は海が近いのですってねえ。」
 わたしは静にきいていた。故|衷《ちゅう》博士がこの姉妹《はらから》ふたりを並べて、ませ子は部屋で見る女、栄子は舞台で見る女といったというが、わたしは、老年の衷氏の前にいる欣々女史は孫、もしくは娘のような態度で無邪気そうに甘えていたことを言って見た。
 ませ子さんは言う。
「姉は利口で
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