ました。私がはじめて淡路町へいったころは、毎晩宴会のようでした。あっちにもこっちにも客あしらいがしてあって――江木の権力《ちから》と自分の美貌からだと思っていたから。だから顔が汚なくなるということが一番怖《こわ》い、それと権力も金力も失いたくない。それが、震災で財産を失《なく》したのと衷《あに》に死なれたのと年をとって来たのとが一緒になって、誰も訪《たず》ねて来なくなったのが堪《たま》らなかったらしいのです。よく私に、夫に死なれて後《のち》誰も来なくなったかと聞きました。お姉さまの周囲《まわり》の人と、私の方の人とは違うから、私の方は今まで通りですというと、変に考え込んでしまって――財産がすくなくなったっていつでも他《ほか》のものなら結構立派に暮してゆけるだけはあったのですし、今思えば、京都の方へ旅行するから一緒に来てくれないかといいました。そんなこと言ったことのない人でしたが、よっぽどさびしくなったのだと見えて、練馬《ねりま》の宅《うち》には離れも二ツあるから、一緒に住まないかとも言いました。二男を子にくれないかともいいました。けれどあんな気象の人ですからどこまで本気なのかわからない
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