蠶の出來るじゆんじよを知らなかつたのだ。蠶に桑の葉をやることは、實物をしらずに繪などで見ただけだつた。繭になるといふことも、どうやら知つてゐたがそのまた繭から蝶が飛出すことなどは、夢にもしらなかつたので騷いで、捨てられてしまつた。空になつた香箱をながめて泣いた。説明されても、香箱の中へ蠶をうませるのだとせがんだものだつた。養蠶をする田舍でも、種紙《たねがみ》といふものは中々つくれないのだし、第一桑の葉がなければ、蠶のおまんまがないと、老母《としより》がきかせてくれたので、穴があいて、蟲が飛出してしまつた繭を、うらめしく、つくづくと見つづけてゐたものだつたから、そんな事を思ひだしながら、小學生たちに、彼等の手のとどかない、高いところの葉をとつてやつた。
ここまで書いて、ふと目を書棚にやると、諸國の働く女の姿――姿といふよりは、風俗が――服裝が知りたいので貰つた、桑摘み人形の郷土細工がある。背中に籠をしよつたのと、腰にさげてゐるのとがあるが、私が諸國で見かけた娘さんたちは、籠を背中にしよつてゐた。しかも、桑籠に盛りあがつてゐるくらゐはまだ輕い方で、背を丸くして、うつむいて歩くと頭を越すほ
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