離しがたいものが入れてあつて、毎日蓋をあけると、無言に對話してゐた馴染ぶかい品《もの》に、居處《ゐどころ》を明《あ》けさせたのだから、ね、みんなすこしの間、この香箱《おうち》ね、繭さんにかしてあげてねと言ひきかせたりしたものだつた。
繭をもらつて來たはじめは、捨ててしまへといはれると大變だから、家のものに内密《ないしよ》で袂へいれてゐたのだが、轉がして落してしまふといけないと、懷へ入れてゐたならば、はねが生へて飛び出しはしないかと、すこしばかり蠶のことを知つてゐるといふ、小さい女中がこつそり言つた。だが、この小さい女中の鑑定では、たぶんこの繭は、振つて見ると音がするから生きてはゐない、何時《いつ》までもこのままだといふので安心して、香箱へ入れておいて、時々見ることにしたのだつた。
ある日、藏座敷《くらざしき》のうすくらがりで、そつと箱の葢をとつて覗くと、黄色つぽい蛾が二ツバサ/\と忙しなく香箱の中を駈け※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]つてゐて、私をおどろかせた。蟲類のきらひだつたあたしといふ子供は聲をあげて、呪魔《まじゆつ》の凾をあけたかのやうに騷いだ。
都會の子供は、
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