桑摘み
長谷川時雨

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)庭木《にはき》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)バサ/\
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 庭木《にはき》の植込みの間に、桑の細い枝が見える。桑畑に培《つちか》はれたものよりは、葉がずつと細かい。山桑《やまくは》とでもいふのかもしれぬ。
 おお、さういへば、かつて、兵庫の和田の岬のほとりが、現今《いま》ほどすつかり工場町《こうぢやうまち》になつてしまはないで、松林に梅雨《つゆ》の雨が煙り、そのすぐ岸近くを行く汽船《ふね》の、汽笛の音が松の間をぬつて廣がりきこえるほど、まだ閑靜《しづか》だつた時分、ある家の塀の中に、外から見えるほどたけ高く枝をさしかはして外を覗いてゐる桑の木があつた。小學生たちがそれを見つけたと見えて、蠶にやるのだからと貰ひに來た。たまたま、その家の泊り客だつたわたしが、庭逍遙をして、門の
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