そとまで歩いてゐるときだつたので、わたしがその家のうちの人のやうな顏をして、摘んでやつたことがある。下枝の方にはもう摘む葉がなかつた。この間來て貰つていつたのだといふ。私は上の方へ手をのばしながら、小學生たちに、いくつ飼《か》つてゐるのかときいた。去年はこの位だつたがと小さい掌《てのひら》を双方ぴつたりつけて、てんでに繭をすくひとるやうにくぼませて見せて、今年はもつと増《ふ》やすのだといつた。
わたしが、いくつ[#「いくつ」に傍点]飼《か》つてゐると聞いたのもをかしいが、私にも思ひ出があつたからだつた。あたしのは子供のをり、たつた二つぶ――今思へば、小つぶな色も黄色つぽい、あんまり優良でない繭を貰つたのだが、はじめてほんものの繭といふものを手にしたので、紙へ包んでおいたり、小裂《こぎれ》へくるんだりして、それはとても大切にしたものだつた。どこへ入れておいたら一番安全かと、寶石ずきが、素晴らしい寶石でも手に入れたときのやうに貴重な品《もの》とした。そこで、香箱《かうばこ》の中へしまふことにした。その香箱《かうばこ》のなかには、一個《ひとつ》ひとつ、なにやら子供心に、身にとつて大事な、手
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