[#ここから4字下げ]
たまゆらに家を離れてわれひとり旅に出でむと思ふときあり
たたかへとあたへられたる運命かあきらめよてふ業因《ごういん》かこれ
うつくしき人のさだめに黒き影まつはるものかかなし女《おみな》は
そのことがいかに悲しき糸口と知らで手とりぬ夢のまどはし
まざまざとうつつのわれに立ちかへり命いとしむ青空のもと
しかはあれど思ひあまりて往《ゆ》きゆかばおのがゆくべき道あらむかな
何気なく書きつけし日の消息がかばかり今日のわれを責むるや
酔ざめの寂しき悔は知らざれど似たる心と告げまほしけれ
[#ここから2字下げ]
こういう寂しい心境をうたった歌を読んで、その人がもうこの世にないということを考えると、人生、一路の旅の、果敢《はか》なさを思わずにはいられなかった。――『白孔雀』から――
[#ここで字下げ終わり]

 吉井さんにしても、※[#「火+華」、第3水準1−87−62]子《あきこ》さんにしても、人世の桎梏《しっこく》の道を切開《きりひら》いて、血みどろになってこられたかたたちだ、その人の心眼に何がうつったか? ただ、寂しい心情とのみはいいきれないものではなかったろうか。白蓮さ
前へ 次へ
全43ページ中33ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長谷川 時雨 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング