九条武子
長谷川時雨

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)気高《けだか》き

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)十二|単衣《ひとえ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)柳原※[#「火+華」、第3水準1−87−62]子
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       一

 人間は悲しい。
 率直にいえば、それだけでつきる。九条武子と表題を書いたままで、幾日もなんにも書けない。白いダリヤが一輪、目にうかんできて、いつまでたっても、一字もかけない。
 遠くはなれた存在だった、ずっと前に書いたものには、気高《けだか》き人とか麗人とか、ありきたりの、誰しもがいうような褒《ほ》めことばを、ならべただけですんでいたが、そんなお座なりをいうのはいやだ。
 その時分書いたものに、ある伯爵夫人が――その人は鑑賞眼が相当たかかったが、
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あのお方に十二|単衣《ひとえ》をおきせもうし、あの長い、黒いお髪《ぐし》を、おすべらかし[#「おすべらかし」に傍点]におさせも
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