[#「けじめ」に傍点]がはっきりついて、卑近な無理解など、どうでもよいとの決心がついていたにちがいない。なぜなら、その人がいったようなただ、あざ[#「あざ」に傍点]けた女《ひと》に、こんな心の声があろうか、
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さくら花散りちるなかにたたずめばわが執着のみにくさはしも
ちりぢりにわがおもひ出も降りそそぐひまなく花のちる日なりけり
さくら花散りにちるかな思ひ出もいや積みまさる大谷《おおたに》の山
まぼろしやかの清滝《きよたき》に手をひたし夏をたのしむふるさとの人
やうやくに書きおへし文いま入れてかへる夜道のこころかなしも
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これはみんな、世にない人を思い出した歌ではない。ふるさとの人とは、誰をさしていったものだろう、そんなことは言っては悪いと叱られるかもしれない。だが、それだからこそ人間ではないか、それだからわたしは武子さんが悲しく、そして忘れないのだ。ただ、わたしはいう、あの豪気な、大きい心の人が、なぜその苦しみとひたむきに戦わなかったか、この人間の苦しみこそ、宗祖|親鸞《しんらん》も戦って戦いぬいて、苦悩の中に救いを見出《みいだ》し大成し
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