りの火はふるもひとりの人の涙にぞ足《た》る
その一歩かく隔りの末をだに誰《たれ》かは知りてあゆみそめむぞ
この風や北より吹くかここに住むつめたき人のこころより吹く
この胸に人の涙をうけよとやわれみづからがくるしみの壺
おもひでの翼《つばさ》よしばしやすらひて語れひとときその春のこと
影ならば消《け》ぬべしさはれうつそ身のうつつに見てしおもかげゆゑに
引く力|拒《こば》むちからもつかれはてて芥《あくた》のごとく棄《す》てられにしか
たまゆらに家をはなれてわれひとり旅に出でむと思ふときあり
たたかへとあたへられたる運命かあきらめよてふ業因《ごういん》かこれ
執着も煩悩《ぼんのう》もなき世ならばと晴れわたる空の星にこと問ふ
空《むな》しけれ百人《ももたり》千人《ちたり》讃《たた》へてもわがよしとおもふ日のあらざれば
夢寐《むび》の間《ま》も忘れずと云《い》へどわするるに似たらずやとまた歎けりこころ
むしろわれ思はれ人《びと》のなくもがなあまりに病めばかなしきものを
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[#地付き]――滞洛手帖十四首の中から――
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ふるさとはうれし散りゆく一葉《ひと
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