ん》な著であるので、信頼して読ませて頂いたからだ。その行間からわたしは何を見たか――
 籌子《かずこ》夫人のこのお婿さん工作も、愛弟だったときけば頷《うなず》けるし、実家の嫂《あによめ》は東本願寺からきた人で、例の御連枝《ごれんし》と縁のある方《かた》であり、それらの張合もないとはいえまいが、良致氏は、籌子夫人の手許《てもと》へ引きとられていたというものがあるから、武子さんとも顔を合せていなくてはならないのに、この書では、結婚の日が初対面と記されてある。この初対面という方に従ってゆくと、これはまた、あれほど大切にしたお姫《ひい》さんを、なんと手軽にあつかったものだか――もとより何もかも、知りすぎる位にわかってる方が進めてゆくのだから、誰にも安心はあったであろうが、いやしくも人生の最大事業をおこなう男女当事者が初対面とは――無智|蒙昧《もうまい》な親に、売られてゆく、あわれな娘ならば知らず、一万円持参で、あの才色絶美、京都では、本願寺からはなすのはいやだと騒がれた美女《ひと》なのに――
 籌子夫人は幾度か上京し、仕度万端、みな籌子夫人の指図《さしず》だった。
 も一度。
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