》お目にかかれませぬに――」
 そういう大番頭夫人の顔を、いつぞや、見世ものでみた、※[#「けものへん+非」、402−14]々《ひひ》のような顔だと、あんぽんたんは見ているうちに気味が悪くなった。
「しげしげお目にかかるんじゃあ、おらあ、生きてるより死んだ方がいい。」
「あんな、もう、憎《にく》て口を――」
 大番頭夫人は口で憎がるが、おおかめさんは機嫌よくお杯口《ちょく》を重ねて、お酌をしたり、してもらったりしている。
「次の狂言には、何をやるのさ、お前さん。」
「八百屋の婆《ばば》あだよ。」
「まあね、さぞ、およろしかろうね。」
 大番頭夫人は、小さな丸髷《まるまげ》とはつりあわない、四分玉の珊瑚珠《さんごじゅ》の金脚で、髷の根を掻《か》きながらいった。
「厭味《いやみ》な婆あにすりゃあいいんだから、よくなくってどうするんだ。手近に、そのままのがいるじゃあねえか。そっくりそのまま真似ときゃあ、すむんだ。」
 ぼんやりと憤っているあんぽんたんの顔を見て、あごで[#「あごで」に傍点]、そら、そこにね、というふうにおおかめさんの方を、しゃくって示しながら、その男は上機嫌に笑った。もの言い
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