、女も男も老人に見えたが、中年人だったのかもしれない――柔らかい袴《はかま》を穿《は》いて、黒い手|提《さ》げ袋をさげてはいってくると、座蒲団の上に突ったったまま、あんぽんたんを見てそういったのだった。
 と、大女房《おおかめ》さんが、衣紋《えもん》をつきあげながら甘ったれて言ったのだ。あたいの娘だと――
 あんぽんたんの憤懣《ふんまん》は、それっきり、ものを食べなくなってしまったのだが、大人《おとな》はそんな感情がわかるほど、しっとりとしていなかった。乾ききった人たちだった。
 青黄ろい、横皺の多い、小さな体で、顔が、ばかに大きく長目な、背中をわざと丸くするような姿態《しな》をする、髪の毛が一本ならべて嘗《な》めたような、おおかめさんのお供をしてきた大番頭の細君は、御殿づとめをしたという、大家の女房さんたちのするような、ごらんじゃい言葉で、ねちねちとものをいって、その場をとりなすのだった。
「ほんとにおめえの娘なら、亭主の子じゃあねえな、おれんとこへよこしな、みっちり芸をしこんで――」
「芸者に売るんだろう。」
「まあまあ、何をおっしゃるやら、以前《いぜん》のようには、茂々《しげしげ
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