いてみろ。」
「ほんだよ、末の娘だあね。」
「ごらんじゃい、まあ! あんまり乱暴におはなし遊ばすので、このお娘《こ》が、はは様のお顔を、びっくりしてごろうじる――」
 まったくわたしは吃驚《びっくり》して! 母などとは、きくもいまわしい、汚ない、黒いダブダブ女を※[#「目+登」、第3水準1−88−91]《みつ》めていた。
 ここで、わたしという、あんぽんたん女史|十歳《とお》か十一歳の、ぼんやりした映像をお目にかける。厳しい祖母の家庭訓に、こんな会話の場所へ連れだされても、みじろぎもしないで坐っているのだったが、鉄屑《かなくそ》ぶとりのおおかみさんの死んだ末っ子と、おなじ年齢《とし》だというので、ちょっと遊んだこともあったので、思い出してしかたがないから、浅草|観音様《かんのんさま》への参詣《おまいり》にお連れ申したい、かしてくれと申込まれて、いやいやながら、親のいいつけにより伴われて来たのだが、そこは観音様ではなく、芝居がえりの、料理屋の座敷だった。
 あたしたちが座蒲団に乗ると、すぐ間もなく、テラテラした、金壺眼《かなつぼまなこ》で、すこしお出額《でこ》の、黒赤い顔の男――子供には
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