仲間の細君が、以前から大家《たいけ》だったように勿体《もったい》ぶっているのと、歩調が合わなくなると、
「あのお虎婆め、常磐津《ときわず》もろくに弾けない、もぐり師匠だったのを、わすれやがったか。」
と自分のおさとまでぶちわって、向う角の、蔵造りで、店は格子を閉めてある、由緒ありげに磨きあげて、構えこんでいる黒光りの角蔵《かど》を睨《にら》んで、その奥座敷におさまる比丘尼《びくに》婆の、絽《ろ》の十徳を着た女隠居に当りちらすのだった。
おおかめさんは八丁堀の古着屋の娘、近所の古鉄商の若い衆で、田舎出だが色白で、眼鼻立のはっきりしたのに惚《ほ》れこんだのだ。若い衆の方は、金がなくても、夜寝床から裸でぬけだして、駕籠《かご》で飛ばして行くと、吉原で花魁《おいらん》がたてひいたんだと、紳士になってからも、湯上りにはすっかり形式をかなぐりすてて、裸になって、手拭を肩へかけ、立膝《たてひざ》でお酒をのんで、土用のうちでも、蔵前のどじょう汁だとか、薬研堀《やげんぼり》の鯨汁好みが、汗をふきふき、すっかり紳士面になりきってしまった仲間をこきおろすのだった。平日《ふだん》は重い口が、顔が赤銅色に染ま
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