の、だれだかの作で、笑った女の面が、眼も鼻もなく、顔の真中につぼまって、お出額《でこ》と、頬っぺたと、大きな※[#「月+齶のつくり」、第3水準1−90−51]《あご》に埋まってしまって、鼻の穴だけが竪に上をむいた、いかにも親しみやすい平民の女の顔を見たとき、ふっと、おおかめさん一族の女に共通だったものを見て、お面に笑いかけてしまった。けれど、古面の方は眼が糸目なので――開いても柔らかいであろうが――おおかめさんは、小さな眼が、奥のほうで濁った鋭さをもっていた。
 おおかめさんとは、大旦那に対する、大内儀《おおおかみ》さんの意味で尊称なのであろうが、自分でいうとおおかみさんになり、出入りの相撲《おすもう》さん×山関がいうとおおかめさんとなる。狼《おおかみ》がいいというものと、大お亀《かめ》の方が縁起がいいというものと、どっちもごっちゃだ。
 おおかめさんの御機嫌にさからうと、
「どいつもこいつも、みんな出ていけ。」
と家中のものが、一集《ひとあつ》めに頭から怒鳴られる。お品よく、お品よくと、お附女中から、大番頭さんの女房まで揃えても、ともすると夏は諸《もろ》はだぬぎになったりして、当り屋
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