かのと、変な名を言い出したりしたが、凡庸であった時に困るであろうから、きわだった名はつけぬものだと、祖母にいさめられていた。
 生れた弟は弱い子で、真綿とフランネルと絹にくるまっていた。
 男の子を生む――家督取《あととり》を生んだということが、旧式な家庭における主婦の位置を、どんなに高めたか――
 親類というものからも、出入《でい》りというものからも、お手柄でございましたという讃詞《さんじ》と、張込んだ祝いものがくる。そこで、母の勢力が増して強くなった。
 議事堂が焼けた。議事堂炎上ということは、人の足を空にした。
 私《あたし》の家《うち》でも、いくつ弓張りや手丸提燈《てまるちょうちん》に灯《ひ》を入れて出してやったかわからない。議事堂です、議事堂ですと、各自《みんな》が口々に言った。丸の内の火事は、旧幕時代でも、町奉行、火消掛、お目附《めつけ》その他役附老中の出馬、諸大名の固め、町火消、諸家お抱《かかえ》火消と繰出して、持場持場についたものだが、当今、城は宮城であり、何しろ議事堂の失火だからと、父ははなしてくれた。単に建築物が焼け滅びるという言葉意外に、大きな衝動をうけたに違いな
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