昔から土一升、金一升の土地でも、額《ね》にはならない高いことをいって、断わっても借りてしまう。とにかく畳一畳へ造作をして、昼間は往来へはみださした台の上へ、うず高く店の商物《しろもの》を積みあげる。この割込みが通れば一ぱしのものだ。いつの間にか、露路上へまで乗り出し、差かけ二階が出来上り、どこへあれだけの人数が寝るのだろうと思うほどの店員が住んで働らき出す――実際古くさい大店《おおみせ》の、よどんだ中に、キビキビとそんなのが仕出すと、小気味がよいが、近隣の空気はどことなく変って、けいはくになってくる――
 そこで、あんぽんたんの家庭《うち》にも、少々変革があった。それは弟が生れたからだ。
 雛《ひな》の節句の日に、今夜、同胞《きょうだい》が一人ふえるから、蔵座敷に飾ってあるお雛さまを収《しま》えと言いつけられた。その宵、私たち小さくかたまって、おとなしくしていると、八十二になっていた祖母が引裾《ひきすそ》を、サヤサヤと音たてて、チンボだよチンボだよと言いながら父の方へいった。
 国会開設前であった。父は一体遅い子持ちなのに、思いがけなく男の子が出来たので、興奮したのか、国会太郎としよう
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