という畑の人間でないことを、事ごとに思いあたっていたものであろう。だが、生れ土地で、地盤というものを、すこしでももっていたためか、選挙時にはゴタゴタしていた。
――日本橋区選出議員は改進党の藤田茂吉《ふじたもきち》氏だったが、その後|楠本正隆《くすもとまさたか》氏が、政友会から出る時、輸入候補だというので、地元への折合を担ぎこまれていた。いわゆる顔役――そんな時に、人を担いで顔をうっている区内の政治好きが、楠本氏に草鞋《わらじ》を穿《は》かせ、袴《はかま》のももだちをとって連れてきた。握飯《にぎりめし》も持っているのだという。旅から来て、新選挙地に草鞋をぬぎ、土着《どちゃく》になるのを意味するのだときいたが、嘘の皮で、その前日にも打合せに来ている。区内になんぞ住みもしなかったが、ともあれ、選挙ブローカーが附いて、その姿で戸別訪問をはじめた。だが、おひとよしの町人は――日本橋区は金で動かないからという策略があたって、握飯をもって、草鞋で歩くとは、清廉《せいれん》な人だと当選させた。楠本氏はえらい人だというのに、こんな芝居めいた所作《しょさ》をするのが、あんぽんたんには、代議政治を委任さ
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