った事は、残ったお萩の始末で、食べ残しをお寺へもってゆけない。
「投げちゃえばいい。有難うございましたって、からっぽにしてゆけばいい。」
 小りんさんはそうしなかった。穴を掘って重箱ごと捨ててしまった。
 家《うち》へかえって訊《き》かれると、「捨てたよ」とはっきり自分でした通りをいった。家のものがいって見ると、黒ぬり蒔絵《まきえ》の重箱が、残ったお萩のはいったまま土中にあったので、かえって本当だったのに呆《あき》れた。
 女らしくないといって、糺命《きゅうめい》のため味噌蔵《みそぐら》にいれられた小りんちゃんは、大人たちの不当な仕置きに腹を立てた。あやまることなんぞ考えもしなかった。自分のしたことのいいかわるいかは子供だから知らないが、つねづね親たち師匠から、人間は正直が第一だ、ことに神宮《おおかみ》の御鎮座ある伊勢は「伊勢子正直《いせこしょうじき》」と名のあるのを誇りにしているといましめるのに、なぜ正直に言ったことが悪い――それが不足だった。
 彼女は、自分をこんなに困らせる家人《おとな》を、自分も困らしてやろうとばかり考えた。暗い陽《ひ》の遠い味噌蔵に這《はい》っている、青大将も
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