怖《こわ》くなければ、いたずらに出てくる鼠《ねずみ》にも馴《な》れた。
 仕かえしは味噌|樽《だる》の中へときまった。彼女は自家用の幾個《いくつ》かの樽のなかへおしっこ[#「おしっこ」に傍点]が出たくなると、穴をあけておいてした。味噌を掻廻《かきまわ》しておいて知らん顔をして、それからおわびをして蔵から出してもらった。
 おや? この樽の味噌は――あら? この樽のも――
 やがて、日がたってから、家のものが変な顔をして、味噌汁を吸うのを、彼女は小躍《こおど》りしてよろこんだ。
「私のしっこを飲んでいる――」
 大人たちは、はじめは何をいっているのかとりあわなかったが、彼女があんまり伊勢子は正直だ、伊勢子は正直だ、私のしっこを飲んでいる――と小躍りするので、やっと彼女の悪戯《いたずら》が、味噌をだいなしにしてしまったのだと感じた。
 この祖母《おばあさん》、江戸へ来て嫁入って、すぐ大火事にあって、救米のおむすびをもらった時、傍《そば》にいた者がお腹がすきすぎて、とうてい一個《ひとつ》の握飯《おむすび》では辛棒がなりかねるとなげくと、さっそくに抱えていた風呂敷包に手拭をかむせ、袖の下に寝さ
前へ 次へ
全26ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長谷川 時雨 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング