西川小りん
長谷川時雨
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)浴衣《ゆかた》を
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)賢人|面《づら》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ときもの[#「ときもの」に傍点]の糸と
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夏の朝、水をたっぷりつかって、ざぶざぶと浴衣《ゆかた》をあらう気軽さ。十月、秋晴れの日に張りものをする、のんびりした心持は、若さと、健康に恵まれた女ばかりが知る、軽い愉快さである。親しいもののために手軽くつくる炊事の楽しさと共に、男や、貴人《あなたがた》の知らない心地であろう。
私《あたし》はときものの興味を、今でも多分にもっている。背筋の上から、ずっと下の針止めに鋏《はさみ》を入れておいて、ツーと一筋に糸をぬくのがすきだ。それは空想好きの私のよろこんで引きうけた、娘時代の仕事のひとつであった習慣からでもあろう。ときもの[#「ときもの」に傍点]の糸と共に、つきない空想を、とりとめもなく手《た》ぐりだし楽しんでいたのである。だが、その習慣がまた、ずっと昔の、あんぽんたん時代の家庭行事の一つに、夜ごと養わ
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