いた。もんじやきやのお婆さん、ほおずきやのおかみさん下足のおじいさんといった仲間が、そのほかにも三、四人はきっとくる。そして車夫の松さんと、迎えにくる女中と、あんぽんたんと、それだけが、あまり上等でないおしるこを振舞ってもらう。
あたしは「長吉」という、まっ黒な古人形を持っている。長吉はねずみちりめん無垢《むく》の上衣《うわぎ》、緋《ひ》ぢりめん無垢の下着、白の浜|縮緬《ちりめん》のゆまき、緋《ひ》鹿の子のじゅばんを着ている。それらは古びきっているが、祖母が江戸へ来てから新らしく縫って着せたものだ、祖母はその長吉人形を抱いて十九の年に下向したのだ。
なんで江戸まで出てきたのかというと、疱瘡《ほうそう》を病《わず》らっているとき、あんまり許嫁《いいなずけ》の息子とその母親が、顔を気にして見舞いに来るので、ある日、赤木綿の着物に、赤木綿の手拭で鉢まきをし熱にうかされたふりをして、紅提灯をさげて踊り出し気の弱い許嫁|母子《おやこ》を脅《おど》かして、自分の方から愛想ずかしをさき廻りにしてしまった。こんなところは面白くないと、江戸の兄をたよって出て来たのだった。小りんという名も、よい容貌
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