るので、合手《あいて》は苦い顔をしてだまってしまう。私はそこにも厭《あ》きて、錫《すず》の大壺《つぼ》に酌《く》みいれてあるお水をもらって、飲んだり、眼につけていたりする人を眺めていた。
やがて和讃《わさん》がはじまる。叩鉦《かね》の音が揃《そろ》って、声自慢の男女が集ると、
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有転《うてん》輪廻《りんね》の車より、
三毒《さんとく》五慾《ごよく》の糸をだし
生死《しょうし》のかせわのひまいらぬ
さあてもとうとき、おんあぼきゃ、
べいろしゃの、なかもふだらに、はんどく、
じんばら、はらはりたや、うん――
じんばら、はらはりたや、うんが面白くて、いい気になって高音《こうおん》にうたった。
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そのうちに、香染《こうぞめ》の衣を着た、青白い顔の、人気のあった坊さんが静々と奥院の方から仄《ほのか》にゆらぎだして来て、衆生《しゅじょう》には背中を見せ、本尊|菩薩《ぼさつ》に跪座立礼《きざりつれい》三拝して、説経壇の上に登ると、先刻嫁を罵《ののし》り、姑をこきおろした女《ひと》たちが、殊勝らしく、なんまいだなんまいだと数珠《じゅず》を繰っておがむ。
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