していると人気があった。お婆さんたちがはしゃいだ声を出して御寄附の相談をする。麦酒《ビール》なら水だから召上るだろうとか、白足袋を差上げようとか、褌《したおび》におこまりだろうとか――すると、番僧が大火鉢で、肘《ひじ》まで赤いたこ[#「たこ」に傍点]をこしらえて、ガンばってあたりながら、拙僧《わし》にもくれよとか、雑巾《ぞうきん》の寄附がすけなくなったのという。食物をつけとどける人も少くない、毎晩くる中にも、お茶菓子をかかさずもってくるので、火鉢の辺りは有福《ゆうふく》だった。
 大店《おおだな》の内儀《おかみ》さんたちは嫁をそしる。中年になったお嫁さんは、いつまでも姑《しゅうとめ》が意地わるく生きていると悪口《あっこう》しあうのを、番僧たちはうまく口を合せていた。そんな時、祖母は口を決してださなかった。傍《はた》のものが、あんぽんたんの顔をみいみい、円曲《えんきょく》に、母のことに話をむけてゆくと、
「心の鬼の角《つの》をおりに来て、ざんげ[#「ざんげ」に傍点]なさるのはよいが、後生《ごしょう》がようござりますまい。家《うち》の嫁は孝行で、孝行であんなよいものはござりませぬ。」
とや
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