ん》がすむと、お気に入りの松さんの車で、ソロソロと、牢屋《ろうや》の原の弘法大師《こうぼうさま》へ祖母は参詣にゆく。ある時は毎晩のように出かける。あんぽんたんと女中とは、ブラ提灯《ちょうちん》をさげて車のわきを歩いてゆく。送りこむと松さんと女中は帰っていった。
大安楽寺《こうぼうさま》の門前までゆくと、文字焼《もんじやき》やのおばさんと、ほおずきやの媼《おば》さんが声をかける。下足のお爺さんは、待っていたように援《たす》けおろしてくれる。本堂にはお説経の壇が出来て、赤地錦《あかじにしき》のきれが燦爛《さんらん》としている。広い場処に、定連《じょうれん》の人たちがちらほらいて、低い声で読経《どきょう》していた。
祖母は広い廊下を通って、おさい銭|函《ばこ》の横の一角の、参詣人が「お蝋燭《ろうそく》」と階下から怒鳴ると、おーと返事をする坊さんたちの溜《たま》りの方へいった。そこには大きな角火鉢や、大きな鑵子《かんす》があって世話人や、顔の売れた信者の、団欒《だんらん》する場処《ところ》だった。
時々|高野山《ほんざん》から説教師が派出されてきた。その坊さんが若くて、学僧らしい顔付きを
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