)の子で、十三、四に、お前浜《まえはま》一帯、お旗本、士族といわず、漁師までびっくりさせた勇敢な汐汲《しおく》み少女(前出)のおたきさんである。むちゃくちゃな勇気と働きは、愛されもしたであろうが、辛棒は、祖母の方が多くしたかもしれない。
 祖母のお友達は変っていた。御隠居さんにちょいとお願いがと、やってくるものは、家へくる客とは違って、木綿ものを着て、大層遠慮がちに訪ずれた。だが、
「まあよくお出《いで》だ。」
と祖母が元気よく玄関に現われると、彼女たちは雄弁になって奥へ通る。
 あんぽんたんは夜泣きをして、父母の室《へや》から襖《ふすま》の外へ投《ほう》りだされて、寒い室に丸くなって泣寝入りして、祖母に抱いていかれた夜から、ちゃんと心得てしまって、泣いて室外へ投りだされると、蔵の網戸のとこまで、そっと這《は》ってゆくことを覚えた。すこし大きくなってから、夜半《よなか》に祖母におこされて、お灸《きゅう》を毎夜すえてあげる役目をもった。高齢の人には、心のおけないお伽《とぎ》坊主ですこしは慰めにもなったのであろう、何処《どこ》へゆくにもお供《とも》をさせられるのだった。
 夕御飯《ゆうごは
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