が、此家《ここ》の二人もそうだった。長四畳には帝釈様《たいしゃくさま》の髭《ひげ》題目の軸がかかっていて、お会式《えしき》の万燈《まんどん》の花傘の、長い竹についた紙の花が丸く輪にして上の方にかかっている。軸の前の小机には、お燈明《とうみょう》やら蝋燭《ろうそく》台やら、お花立やらお供物《もりもの》の具や、日朝上人《にっちょうさま》のお厨子《ずし》やら、種々《さまざま》な仏器が飾ってある。
 おしょさんは、その部屋の、真中の柱に、長い柱鏡のかかっている前に、緋《ひ》の毛せんを敷いて二面の二絃琴にむかって座っている。すべての小道具は、燦然《さんぜん》とみな磨かれて艶々《つやつや》している。座ぶとんの傍に紫檀《したん》の煙草盆があって、炉扇《ろせん》でよせられた富士山形の灰の上に香《こう》がくゆっている。二面の二絃琴の間には、漢方医がもたせてあるいた薬箱が、丁度両横から押出すようになっていて具合がよいので、薄い横とじの唄本《うたほん》をおくためにおかれてあった。六ツばかりある引出しには、絃《いと》や、小鋏《こばさみ》や、懐中持ちの薬入れに入れた、絃に塗る練油《ねりあぶら》などが入れてあった
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