神田附木店
長谷川時雨

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)九歳《ここのつ》の

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)浅草|見附《みつけ》内

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#「よき」に傍点]
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 八月の暑い午後、九歳《ここのつ》のあんぽんたんは古帳面屋《ふるちょうめんや》のおきんちゃんに連れられて、附木店《つけぎだな》のおきんちゃんの叔母《おば》さんの家へいった。
 附木店は浅草|見附《みつけ》内の郡代――日本橋区|馬喰町《ばくろちょう》の裏と神田の柳原河原のこっちうらにあたっている。以前《もと》は、日本橋区の松島町とおなじ層の住民地で、多く願人坊主《がんにんぼうず》がいたのだそうだ。附木を造って売ったから附木店の名がある。だが、あたしが連れてかれた時分はそんな場処ではなかった。表通りは何処《どこ》か閑散として、古鉄屋《ふるがねや》や、かもじ屋や、鍛冶屋《かじや》位が目に立ったが、横町は小奇麗《こぎれい》だった。
 おきんちゃんは、一間の格子と一間の出窓をもった家の前で止まった。窓には簾《すだれ》があって
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