、前に細っこい植木が二、三本植わっていた。万年青《おもと》の芽分けが幾鉢も窓にならべてあって、鉢には鰻《うなぎ》の串《くし》をさし、赤い絹糸で万年青が行儀わるく育たないように輪を廻《めぐ》らしてあった。格子をあけると中の間の葭屏風《よしびょうぶ》のかげから、
「きんぼうかい?」
と声をかけた女《ひと》がある。昼寝をしていたのだろう屏風の横からこっちをちょいとみて、きんぼうが一人でないので起上った。
あたしはその人を立派な女だなあと思って見とれていた。奇麗な女は幾人《いくたり》も見たが、なんだか大々《だいだい》してみえたのだ。色の浅黒い大きな顔で、鼻がすっと高くってしおのある眼だった。剃《そ》った眉毛《まゆげ》がまっ青だった。大きな赤い口で、歯は茄子色《なすびいろ》につやつやしていた。洗い髪がふっとふくれて、浴衣に博多の細帯をくいちがうように斜《はす》にまいていた。
その女が、団扇《うちわ》をもつ手で、葭屏風をかたよらせながら言った。
「そのお子さんかい、きんぼう。」
十歳《とお》で、小柄で、ませている、清元の巧者《じょうず》な、町の小娘お金坊は、蝶々|髷《まげ》にさした花|簪《か
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