んざし》で頭を掻《か》きながら、ええといった。あんぽんたんのことは話しずみの友達だったのだろう。
「やっちゃん、てったのねえ。」
その女は綺麗《きれい》な、ちりめんの小枕《こまくら》に絹糸の房の垂れている、きじ塗りの船底枕《ふなぞこまくら》をわきによせながら、花莚《はなござ》の上へ座ったままでいった。そばには大きな猫がいた。
あたしは猫が大きらいだ。おまけに化けそうな大猫で、ふとい尻《し》っぽの長いのだから、なおいやだった。それにもかかわらず、初対面のこの女《ひと》の魅力と、ここの、せまい家《うち》の、八幡《やわた》の藪《やぶ》しらずのような面白さに、おきんちゃんについて毎日通うようになってしまった。
おしょさん、とおきんちゃんは叔母さんのことを呼ぶ。その時分、好事家《こうずか》の間から、漸《ようや》く一般的に流行しかけて来た、東流《あずまりゅう》二絃琴《にげんきん》のお師匠さんだったからだ。
ここで、すこしばかり知ったかぶりをいうと――これは九歳のあんぽんたんではなく、その後《のち》十年もの間にぼんやりと知ったものだが――東流二絃琴は明治十七年ごろ世に流行しはじめた。家元の藤
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