のれん」に傍点]口がある。長四畳の縁は台所の後までついていて鉢植ものの棚と、箱庭と金魚鉢の小庭がある。庭口から女中さんが厠《ごふじょう》へくるときは、外で下駄をぬいでくるほど小庭の中はきれいで、浜でとれる小貝や小砂利が磨いてしいてある。外は紺屋《こうや》の張り場だった。塀外に茄子《なす》の花が紫に咲いて、赤|紫蘇《しそ》のほ[#「ほ」に傍点]が長く出ていた。
 外《おもて》の窓の部屋に、硝子《ガラス》戸の戸棚と小引出しがずっとならんでいたが、おしょさんの連合《つれあい》の商業《しょうばい》は眼鏡のわくとレンズを問屋へ入れるだけで、商品が量《かさ》ばらない商業だった。時々|下職《したじょく》が註文をうけに来ていた。連合は開港場の横浜で手びろくやっていた、派手な商館相手の商人だったが、おしょさんのために逼塞《ひっそく》したということだった。らっこのトルコ型の帽子に、ラクダの頸《くび》巻きをして、外国人のような高い鼻をもった大きな人だったが、家にいる時は冬は糸織のねんねこを着、夏は八端《はったん》の平ぐけを締めて、あんまり話はしないが細かく気のつく人だった。
 おきんちゃんのうちも日蓮宗狂だ
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