しまった。
あんぽんたんは、二絃琴がどんなものか、おぼろげながら知っていた。私の家にも芦船師が来たのだそうだが、そんな事は知っていない。ただ二絃琴という名は知らないが、おしょさんの家で見るそれとおなじ楽器が私の家《うち》にもあったのだ。父が時たまとりだして、安座《あぐら》をかいて、奏管《ろかん》(琴爪)で琴につけた譜面の星を、ウロウロ探しあてて弾いていた。大かた九世団十郎時代の、お弟子の一員ででもあったのであろう。父はその琴を撫《なで》ていった。
「これは芦船の形見だよ。」
後にわかったのは、薬研堀《やげんぼり》にいた妾《ひと》は、日本橋区|堀留《ほりどめ》の、杉の森に住んでいた堅田《かただ》という鳴物師《なりものし》の妹だった。今でも二絃琴の鳴物は、鼓《つづみ》の望月|朴清《ぼくせい》の娘初子が総帥《そうすい》である。
おしょさんの家は格子戸の中が半間《はんげん》のたたき[#「たたき」に傍点]に二畳、となりに窓の部屋、中の間の八畳にずっと戸棚があって、一方の壁に箪笥《たんす》がならび、その上に一ぱい細かいものが飾られてある。そのさきが長四畳《ながよじょう》と台所ののれん[#「
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