。おじさんは、おしょさんのために、子供たちの琴の譜をさし示す銀の細い、消息子《しょうそくし》のような棒をつくらせてくれたりした。
おしょさんが髱《たぼ》をかきつけている巧《うま》さ――合せ鏡で、毛筋棒《けすじ》のさきで丸髷の根元を撫《なで》ている時|鬘《かつら》のように格好のいい頭を、あんぽんたんは凝《じっ》と見つめていた。七日目《なぬかめ》でも結いたてよりきれいで格好もよかった。私は夏の日、日盛りを稽古にゆくが、おしょさんの邪魔はしなかった。おしょさんが寝ていても、お客様があっても、髪結いさんが来ていても、お湯にいってきてからでもお化粧がすんで、さあはじめましょうよといわれるまで、幾時間でも、待てば待つほどおとなしくよろこんでいた。なぜなら、おしょさんのうちには、くさ双紙《ぞうし》の合巻《ごうかん》ものが、本箱に幾つあったかしれない。それがみんな、ちょいと何処《どこ》にもあるようなのではなかった。品も新らしいように奇麗で、みんな初版|摺《ず》りだったから、表紙絵の色|刷《ず》りも美事だった。
「ヤッちゃんは大事に丁寧に見るから。」
おしょさんは誰も他に人がいないと、秘蔵な『田舎源
前へ
次へ
全18ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
長谷川 時雨 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング