たところに無理がある。
 それは、芦船という人があまり器用すぎたのだろう。道楽で、猿若町《さるわかちょう》の芝居の囃子《はやし》部屋にもいたりしたから、あの楽器へ、長唄同様な囃子をつけた。黒人《くろうと》がきくと、あらゆる囃子の手がもちいられてあって舌をまくというが、そのよき[#「よき」に傍点]伴奏者のために、細い二本の絃《いと》は悲鳴をあげなければならなくなって、二絃琴の真のよさ[#「よさ」に傍点]を失なった嘆きがある。もとより、江戸情緒風物をたすける、影の、軽い伴奏はあってよい、私のいうのは鳴ものにまくしたてられて、ヒステリカルにキンキンならされるのを惜むまでだ――
 きんぼうに連れられて、あんぽんたんが二絃琴のおしょさんの家にいった時分には、もう家元芦船も芦雪も歿《なく》なっていた。直門《じきもん》に、芦質《ろしつ》、芦洲《ろしゅう》、芦総《ろそう》、芦寿賀《ろすが》らが残っていた。きんぼうのおばさんがその藤舎芦寿賀《とうしゃろすが》なのである。
 芦質さんという女が一番名望家らしかった。青白い、神経質らしい、その仲間でのインテリ夫人《おくさん》だった。薄い髪の毛を上品に、下の方
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