に違いない。横網河岸《よこあみがし》の備前家《びぜんさま》(今の安田公園の処)のお妾《めかけ》お花さんが、毎日|水門《すいもん》から屋根船を出して、今戸河岸《いまどがし》の市川権十郎《かわさきや》の家へいったのでお家騒動が起り、大崎の下邸《しもやしき》へ移転するという噂《うわさ》から、この坊さんもそんなような前身で、大崎の下邸には由縁《ゆかり》のお墓もあるといった。
「御前様《ごぜんさま》はお美しい方だったね、殿様が知事様におなりになった時、御一所にお立《たち》になるので両国の店の前で、ちょいと御挨拶もうしあげた時見上げた事があるけれど、大きなお眼で、真っ黒なお髪に、そりゃあ鼈甲《べっこう》の笄《こうがい》がテラテラして、白襟に、藍《あい》色の御紋附きだったけれど、目が覚めるようだった。」
とおしょさんもいった。両国の店ってなあにと聞くと、
「困ったねえ。」
と母娘《おやこ》して笑った。おしょさんの家《うち》の軒燈《けんとう》には山崎《やまざき》としてあるが、両国の並び茶屋の名も「山崎」だったと坊さんのおばあさんがいった。
 あんぽんたんの好奇心は拡大《ひろげ》られた。並び茶屋を出した
前へ 次へ
全18ページ中14ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長谷川 時雨 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング