紺ぽい麻の単物《ひとえ》を着て、唐繻子《とうじゅす》の細い帯をキチンとしめている盲目のお婆さんは、坊主頭でもいきな顔立ちだった。彼女は縁側にちかい伊予簾《いよす》のかげに茵《しとね》を敷いていて――縁側には初夏ならば、すいすいと伸びた菖蒲《しょうぶ》が、たっぷり筒形の花いけに入れてあったり、万年青《おもと》の鉢があったり石菖《せきしょう》の鉢がおいてあったりした。おばあさんは長刀《なぎなた》ほおずきを鳴らすのが好きで、
「おッさん、あっしにも一本おくれよ。おやおや、こりゃばかにいいんだね。」
なんて、楽しんで、さきを切ってもらって器用に鳴らした。丈《たけ》が二寸からある、長刀《なぎなた》ほおずきは、その時分でも一本一銭五厘から二銭位した。
 その坊主頭の盲目のおばあさんが、キンボウとヤイチャンを前にならべて、銹《さび》た渋いのど[#「のど」に傍点]で唄の素稽古《すげいこ》をする。そばで聞いていて二絃琴の唄はすっかり暗唱しているのだ。おッさんの――おしょさんというのがそうきこえる――あすこんとこは巧《うま》いね、好《い》い節《ふし》だなんていう。この坊さん昔はよっぽどそれ者だったの
前へ 次へ
全18ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長谷川 時雨 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング