の伊三《いさ》という甥《おい》だのがかわるがわるに、一升|樽《だる》だのその他のものを運んだ。ものわかりのいいその人たちが、庭の、敷石のところに立って、座敷の人と応対《うけこたえ》していたのが、ばかにクッキリと今の私の目にも浮かぶ。
 船のつけてあるところは、三河様よりこっちよりの細川邸の清正公様《せいしょうこうさま》のそとのところだった。夕潮が猪牙船《ちょき》の横っぱらをザブンザブンとゆすっていた。
「まず! 一杯《ひとつ》!」
 おとなたちはおいしそうにお猪口《ちょこ》を口にもっていった。と、河の中の交際がはじまる。
「いよ――」
 遠くの方から挨拶をしあうと、両方の船頭が腕に力をギイッと入れる。
「あれは材木町の船だ。」
 竹河岸の材木やは、家内中で派手な船遊山《ふなゆさん》をやっている。暮れないうちの花火は、この船遊山の景物なのである。人々は水をたのしみ、空を仰ぎ、せまい家内や、近所の目から開放された気保養を、涼風とともに満々とうけ入れ、ゆるゆると楽しむのだった。
 河上《かみ》の方から出てきた船は、下流《しも》の佃《つくだ》の方まで流してゆく。下流の方から出てきた船は竹屋を越
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