牢屋の原
長谷川時雨

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)金玉《かねだま》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)丁度首|斬《き》り場

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#「とって」に傍点]
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 金持ちになれる真理となれない真理――転がりこんで来た金玉《かねだま》を、これは正当な所得ではございませんとかえして貧乏する。いまどきそんなことはないかもしれないが、私のうちがそれだった。
 御維新のあとのごたごたが納まっても、なかなか細《こま》かしいことは何時《いつ》までも残っていたのであろう。転《ころ》がりこんで来た金玉を押返してしまった人たちが、ある日こんなことをいっていた。
「たいした土地になった。」
「だからとって[#「とって」に傍点]おおきになればいいのに。」
 それは小伝馬町に面した大牢《たいろう》の一角を、無償で父にくれようといった当時のことを母が詰《なじ》ったのだ。
 丁度首|斬《き》り場のあたりだったというところの柳の木が、厠《はばかり》の小窓から見える古帳面屋《ふるちょうめんや》の友達のうちから帰
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