って来て、あたしが話したつづきからだった。
「西島屋のならびをずっとくれるといったのだが、おら不快《いや》だからな。」
「お父さんは欲がないから、断ってしまったのだとお言いなのだよ。今じゃたいした土地なのにねえ。」
母は、土一升金一升のまんなかで、しかもめぬき[#「めぬき」に傍点]の土地の角地面の地主さんになれなかった怨《うら》みを時たまこぼす。
「あすこはな、不浄場といってたが、悪い奴ばかりはいないのだ。今と違ってどんなに無実の罪で死んだものがあるかしれやしない。おれは斬罪《ざんざい》になる者の号泣《なきごえ》を聞いているからいやだ。逃《のが》れよう、逃れようという気が、首を斬られてからも、ヒョイと前へ出るのだ。しでえことをしたもんで、後から縄をひっぱっている。前からは、髷《まげ》をひっぱって、引っぱる。いやでも首を伸す時に、ちょいとやるんだ。まあ、あんな場処はほしくねえな。」
父が流行《はやり》の長い刀をぶっこんでいた時分、明渡《あけわた》された江戸城の守備についていた時、苑内|紅葉山《もみじやま》に配置してある鹿の置物を狙《ねら》い撃《うち》にしたものもあるとかいうほどだから
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