―あるいは白刃を縦横に突通し、ある時は蝋燭の灯を透間なく、横筒の蛇籠のように長い籠にならべて、その中を桃色の鉢巻きをした子供が、繻子《しゅす》の着物に袴《はかま》をつけて、掛声もろとも難なく飛抜ける。その鮮かな曲芸と、曲芸師の身なりが、漸《ようや》くポツポツ拾いよみしていた、曲亭馬琴《きょくていばきん》の『八犬伝』のなかの犬阪毛野《いぬさかけの》を思わせて、アンポンタンの空想ずきを非常に楽しませてくれた。もとより寄席ではない見世ものだから、その曲芸は客を誘うために、あるていどまで、外《おもて》に立見する客へも見せるから、人気はすばらしかった。怪談の前になると、立っているものも続々はいってきた。
高座の仕掛けは、その頃はやった何段返しとかいうので、後景《はいけい》が幾段にも変るのだった。場内が暗くなると行燈のそばに幽霊が立っている。青テルの人魂《ひとだま》が燃えゆれる――
「かあいやそなたは迷うたナァ」
と真打《しんう》ちの一蝶親方が舞台がかりでいうと、
「うらめしや……」
なんとかと幽霊がいうていた。だが、あたしはぞくぞく[#「ぞくぞく」に傍点]怖《こわ》がった。いま考えると、なかな
前へ
次へ
全15ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
長谷川 時雨 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング