ぬけた。ポコンと穴があいて、血がいくらでも出る。口もゆすがせないで、きたない手でおじいさんは白い粉の薬《くす》りをつけてくれた。残りを小袋に入れて渡して、血がとまらなかったらつけろといった。お代が弐銭だというので、なんぼなんでも安くってびっくりした。蔵前の長井兵助の家は、店で歯磨きや楊子《ようじ》を売っていて、大きな長い刀が飾ってあった。ヤッと掛声してすぐに抜いた。代は五銭の時と十銭の時があった。浅草公園でお馴染《なじみ》だから、大概長井兵助へゆくのだが、お友達におしえられてこの汚いおじいさんの家へいってしまった。
花火の晩といえば、ある年、丁度花火の盛りな時刻に光りものが通った。二升もはいる大|薬缶《やかん》ほどの、鈍く光ったものが、地の上二、三尺の高さで、プカリプカリと流れていった。アンポンタンの家《うち》の小さい女中は、裏の方にある厠《はばかり》から出たとき、すぐそばをスーッと流れていったのでキャッと声をたてた。祖母は金玉《かねだま》だといった。金盥《かなだらい》か鍋《なべ》でふせなければだめなのだといった。都会の夏の夜でさえ無気味なものが、人里はなれた原っぱなんぞでぶつかった
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