、すこしはなれて母、母の横から小さい姉妹が折曲《おりまが》って、祖母の前が丁度私の居場所になる。みんな、各自《めいめい》のお膳を行儀よくひかえる。祖母は何もかも一番早くゆくから一番さきにしまいになる。すると、長い煙管《キセル》をついて監視人と早がわり、御飯粒ひとつでもこぼすと、その始末をしてしまわないうちは食べさせない。あたしは味噌汁《おみおつけ》が嫌いなので、ぽっちりとお椀《わん》の底の方へよそってもらってもつい残す。とにかく祖母の目はあたしにばかりそそがれているからたまらない、最後に、小言《こごと》はいわずに、
「越中立山《えっちゅうたてやま》、無限地獄に堕《おち》るぞよ。」
と、あたしのお残りへ白湯《さゆ》をさして飲んでくれる。あんぽんたんながら、それには恐縮して、老人《としより》の眼は悪かろうからと、だんだん後へさがって座るのだが、お豆腐ぎらいのために母が内密《ないしょ》で半片《はんぺん》にしてくれると、ちゃんと知っている。だから私はすべて襖《ふすま》のそとへ手をついて――只今という機械人形のようなおとなしさだ。この祖母は、ぞんざいな者が傍へくると、近よらないさきから足を踏まれ
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