流れた唾き
長谷川時雨

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)伯母《おば》さん

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)砂糖|壺《つぼ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)グッ[#「グッ」に傍点]としたのかもしれない。
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 神田のクリスチャンの伯母《おば》さんの家《うち》の家風が、あんぽんたんを甚《しど》くよろこばせた。この伯母さんは、女学校を出て、行燈袴《あんどんばかま》を穿《は》いて、四円の月給の小学教師になったので、私の母から姉妹《きょうだい》の縁を切るといわれた女《ひと》だ。でも、当時を風靡《ふうび》した官員さんの細君になったので、また縁がつながったものと見える。思うに私の母はちと癪《しゃく》だったに違いない。家業は自分の夫の方が小粋《こいき》で、モダンなんだが、家風がばかに古くって、伯母の家とはてんでおはなしにならない、違いかただった。
 それも八十になるおばあさんがいるからだ――そう思ったことであったろう。今考えると、月琴《げっきん》をかかえたり、眉毛《まゆげ》をたてたりしたのは、時代の風潮ばかりではな
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