つも鋏《はさみ》をもって座っていた。
父は私を友達のように、とんでもない場所《ところ》へまで連れてゆく。薬研堀《やげんぼり》のおめかけさんのところへ連れていったまま、自分は用達《ようた》しに出てしまうので、私は二、三日して送りかえされる。ついて来た老婢《ろうひ》が、なにかと告口《つげぐち》をするのに、私は何も言わないので母に大層|折檻《せっかん》されたりした。
またある時は吉原へ連れてゆく。桜の仲之町の道中も、仁和加《にわか》も見た。金屏風《きんびょうぶ》を後にして、アカデミックな椅子《いす》に、洋装の花魁《おいらん》や、芝居で見るような太夫《たゆう》は厚いふき[#「ふき」に傍点]を重ねて、椅子の上に座り前に立派な広帯を垂らしているのを見た。せまい道巾《みちはば》のところへいったら、小さな店に、さびしげにいた黒い白粉《おしろい》をつけたようなお女郎が「おちゃびんだ」とどなって、煙管《キセル》を畳に投げつけたので、私はびっくりして、格子にぶるさがっていた手をはずしてベソをかいた。ある時は芝居につれていった。よわむしな私は芝居がこわくて、大きらいだったのに連れていっては失敗していた。新
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