べっこう》ぶちの眼鏡《めがね》を鼻の上にのせて、紫に葵《あおい》を白くぬいた和鞍《わぐら》や、朱房《しゅぶさ》の馬連《ばれん》や染革《そめかわ》の手甲《てっこう》などをいじっていた。鞭《むち》とか、馬びしゃくとかいったものは一かたまりずつになって沢山上から釣してあった。漸《ようや》く一間半位の間口だったが、賑やかな見あきない店で職人もせわしく働いていた。前を通るとニカワを煮る匂いがした。
村上という医者の家が一番変っていた。どんな時、誰がどんな病気でも、あんぽんたんが薬をもらってくる時、変だなあとおもうのは、練薬と膏薬《こうやく》の二種《ふたいろ》だけだった。練薬は曲物《まげもの》に入れ、膏薬は貝殻《かいがら》に入れて渡した。
敷石を二、三段上って古板塀の板戸を明け一足はいると、真四角な、かなりの広さの地所へ隅の方に焼け蔵が一戸前《ひととまえ》あるだけで、観音開きの蔵前を二、三段上ると、網戸に白紙《かみ》が張ってある。くぐりをあけてはいると、ハイカラにいえば二階はあるが一間の家で、入口の横に薬の名を書いた白紙を張りつけた、引出しの沢山ある薬だんすがおいてあった。薄暗い中に、紋附きの
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