が、細竹でささえて、二尺五寸ばかりに伸びたそれは、葉が茂って赤い実が美しく、斬髪の客の傍におかれてあった。
「この実のなってるのなんだね?」
「西洋の唐茄子だということで――」
「へえ? 珍らしいものだが、西洋の唐茄子って、ばかに細《こま》っかいもんだな。」
 その一軒おいてとなりに紙屑屋《かみくずや》のおもんちゃんの家《うち》があった。おもんちゃんの家は表はせまくって、紙屑で一ぱいだったが――紙屑やといっても問屋だったのだ――裏には空地があって、糸瓜《へちま》の棚が田舎めかしかった。その後に空瓶の小屋があった。空地では子供角力が夏になると催うされた。
 おもんちゃんは疳《かん》の高い子だったので、みんなから狂気《きちがい》あつかいにされて、ある日大門通りの四ツ角で、いたずら子供たちにとりまかれ、肌ぬぎになって折れた鉄物《かなもの》を振って悪童を追いかけていた。花井お梅の刃傷《にんじょう》の評判が高かったので「花井お梅、花井お梅」と、はやしたてられていた。
 その隣家《となり》が小川湯、そうして三、四軒おいておあぐさんの家であった。その向い側で面白い家をあげれば、角が土蔵から煙筒の出て
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